青葉の森公園 〜房総の野山を凝縮〜


 

【千葉市 中央区 平成20年12月13日(土)】
 
 師走に入り、巷は少しずつ慌ただしさを増してきたように思えます。今年も暮れていきますね。
 今日は遅く起きたので近郊の公園にでも行ってみようかと。目的地は千葉市中央区にある青葉の森公園。ここは元々農林水産省の畜産試験場だったところ。広さ約53ヘクタールの広大な公園です。この公園の中には県立中央博物館があり、これに併設されている生態園でのんびりしたいと思います。
 
                       
 
 まずは首都高に上がって都心環状線内回りへ。浜崎橋からレインボーブリッジを経由して湾岸線へ入り、ディズニーランドを横目に見ながら一路千葉市を目指します。宮野木JCTで京葉道路に入って、松ヶ丘ICで下りると、青葉の森公園はすぐそこです。

 生態園入口

 駐車場にドリーム号を停めて、ぷらぷらと歩いていくと、目の前に博物館。その横の丘陵地と湿地、池のエリアが生態園です。ここでは生きものの自然の中での暮らしぶりが展示されていて、テーマは「房総の自然」。千葉県内の代表的な自然が再現されています。
 園内に入ると右手にオリエンテーションハウスがあります。相談員さんが常駐しているらしく、この日も小さな子ども連れの家族に対して楽しげに展示物の説明をしていました。

 海岸植生

 まずは海岸植生のエリアです。砂地にはハマゴウの枯れた地上部が風に揺れていました。解説板には次のようなことが書かれていました。「海岸の砂浜や崖の植物は、潮風や砂の移動、乾燥などの厳しい環境に晒されています。そのため海岸の植物は独特の形をしています。砂のかぶりやすい砂浜では、地下茎や根を深く伸ばした植物が見られます。また、潮風に晒されやすい乾燥の厳しい崖には、葉の厚い植物が見られます。」 地下茎や根を深く伸ばした植物として代表的なのはハマヒルガオ、ケカモノハシなど。葉の厚い植物ではツワブキやハマボッスなどが挙げられます。
 妙に大きな岩があちこちにゴロゴロしているな、と思ったら、これは房総半島の各地から集めてきたものなのだとか。「房総の大地のほとんどは、礫・砂・泥と、それらが固まってできた堆積岩で造られています。また、一部の地域には、マグマが冷えてできた火成岩や、高い温度や圧力で元の岩石の性質が変わってできた変成岩も見られます。」 実際、地質図などを見ると、房総半島南部、鴨川市から南房総市にかけて半島を横断する「嶺岡構造帯」に火成岩や変成岩が見られるだけで、あとは見事にほとんど堆積岩に覆われています。嶺岡構造帯とは、4500万年〜3500万年前の玄武岩、斑糲岩、蛇紋岩などから構成された、複雑な構造をもつ断層帯です。

 照葉樹林

 ちょっと薄暗い森の中に入ってきました。タブノキ、スダジイ、アカガシなどの常緑広葉樹林、すなわち照葉樹林です。「深緑色で、つやつやと光る葉をもつ常緑広葉樹の林は、照葉樹林とも呼ばれ、東アジア(ヒマラヤ、中国南部、台湾、スマトラ、ボルネオ、ニューギニアなど東南アジア、日本)に特有の林です。房総に見られるシイやカシからなる常緑広葉樹林はその北限の姿で、特に南向き斜面に多く見られます。鬱閉した林の中は、一年中暗く、低木や下草も常緑なのが特徴です。」 中国地方など西日本では当たり前の照葉樹林の風景が、南関東がその北限だったとは。これを初めて知ったときは、自分の常識は世の中の常識と思ってはだめなんだなあ、と思ったものです。(地球的に見ると、西日本も照葉樹林の北限と言っても間違いではないと思いますが。)

 マサキ

 常緑樹=真っ青木→正木(マサキ)と転訛したという説もあるマサキ。これも常緑広葉樹の代表格です。生け垣としてよく利用されていた樹木です。

 イタドリ(果実)  (茎)

 こちらは草本のイタドリ。午後の陽を浴びて輝いていました。茎は太く、中空で、若くみずみずしいときはタケノコそっくりで生食できます。 

 イヌビワ

 見上げると、少し淡い色合いになったイヌビワの葉。イヌビワはチュッパチャプス程度の大きさの丸い果実を付けますが、ビワというよりどちらかというとイチジクに近い感じです。
 次にモミ林に入ってきました。葉の色が濃いだけに、よけいに薄暗く感じます。「房総の丘陵地の尾根には立派なモミ林が見られます。モミは北国の植物というイメージがありますが、実際は日本列島の暖かい地方に分布する針葉樹です。モミの小さな実生は、表土のはがれたところや倒木の上、岩礫地など、他の植物の生えにくい場所に根付き、しだいに大きくなっていきます。」 モミ=クリスマスツリーと覚えていたのは、間違いだったのか?

 アカマツ林

 一転して明るいアカマツ林に出ました。瀬戸内海沿岸でよく見てきた風景に似ています。アカマツは栄養の貧しい花崗岩土壌などで勢力を伸ばす、逆境に強い樹木です。「自然のアカマツ林は、丘陵地の尾根など、土壌が乾きやすく栄養が乏しい場所に見られます。北総の台地に見られるアカマツ林は、建材や薪に利用する目的で植林されたものです。近年、その利用価値が下がり、宅地造成や「松枯れ」の影響も加わり、アカマツ林は年々減少しています。」 アカマツを植林…。あまり聞いたことはありませんでしたが、スギやヒノキが育たないようなところでは、アカマツを植林するようなこともされていたのでしょうか。

 ヤツデ(花)  (葉)

 ヤツデ(八手)といいつつも、葉の裂片は奇数で、7〜9裂するのが普通です。かつては庭木として植えられたそうです。今でも里山を歩くとときどき見かけますが、だいたいは昔民家があったところだったりします。

 ススキ草地

 次は開けたススキ草地です。順路に従って歩いていくと、このように次々と房総の自然が現れます。「ススキは、乾いた草地に見られる多年草です。伐採地や山火事の後などに大きな群落を作ります。かつて、ススキ草地は、屋根の材料や家畜の飼料を得るために、各地で維持、管理されていました。これを「かや場」といいます。広々としたススキ草地では、昆虫をはじめ様々な小動物を観察することもできます。」 東京中央区のビジネス街、茅場町。確かに日本橋川の河畔に位置していますが、その昔はススキの原っぱが広がる場所だったのかもしれません。

 ウツギ(果実)

 コマ(独楽)のような形をしたウツギの果実。コマの軸のように見えるのは残った花柱です。花は「卯の花」と呼ばれます。

 冬晴れの里山

 冬晴れの里山。子供の頃、こんなところを走り回っていたことを思い出します。二度と戻れないあの頃の記憶は遠い宝物。最近子供の頃の記憶が頻繁によみがえるのは、何かの前兆か? 

 雑木林の若返り

 昔の雑木林は、薪や炭を得るために10年〜15年ごとに伐採されていました。今年はここの林、来年は向こうの林というふうに、里山では伐採後の年数が異なる林が混在し、一度にはげ山にならないように管理していたのです。伐採後には切り株からひこばえが伸び、これが成長して株立ちとなって代替わりしてきました。雑木林の若返りです。そしてまた薪や炭として利用できる林になるのです。写真の林は3年前に伐採したのだそうです。
 近年、雑木林に人の手が入らなくなり、放置されたままになっているところが多くあります。関東地方では放置された雑木林は最終的には常緑広葉樹林へと遷移していくことになります。

 伐採したコナラ

 雑木林を伐採して得た薪は、ここでは野積みにして自然に帰していました。写真のコナラは6年前に伐採したもの。もうかなり崩れて土と一体となりつつありました。これには菌類の手助けがあってこそのことです。なお、写真の左上に写っているのが3年前に伐採したものです。

 分かれ道

 左が順路。次は落葉広葉樹林のエリアです。右はぐるっと回って戻ってくる道です。

 カラスウリ(果実)

 この時期、葉を落として明るくなった林にカラスウリの朱い実がよく目立っていました。ここの林は落葉広葉樹林です。「北総台地には、イヌシデやコナラ、クヌギなどからなる落葉広葉樹林がよく見られます。人々は、燃料や肥料を得るため、下草刈りや落ち葉かきなどを繰り返し、この林を維持してきました。樹液に集まるカブトムシやクワガタなどの昆虫も豊富なので、落葉広葉樹林は子どもたちに人気のある林でもあります。」 東北地方を中心とした日本の冷温帯の優占種であるこの樹林を夏緑樹林とも呼びます。

 竹林

 丘陵地から低地に下りてきました。この辺りには竹林が広がっています。これも里山周辺でよく見かける風景です。「竹類は、暖かくて湿った環境を好む南方系の植物です。家の裏山や河川のまわりには、マダケやモウソウチクの林がよく見られますが、その多くは中国から移入されて各地に広まったものです。竹林からは、タケノコや籠などの材料がえら得るほか、その地下茎は地面を密に覆うので、斜面が崩れるのを防ぐ役割を果たします。」 昔は竹をうまく利用していたので、現在のように山全体にはびこるようなこともなかったのでしょう。また、「根切り」といって、竹林の周囲に深さ1mほどの溝を掘り巡らせるようなことをして、必要以上に広がらないようにしていたところもあります。

 舟田池

 生態園の一番低いところに舟田池があります。冬の夕方、その水面はシンとして動かず、ただ梢を渡るシジュウカラの影を映しているのみでした。

 野鳥観察舎

 野鳥観察舎にはたくさんの子どもたちがいてビックリ。園内ですれ違う人も希だったのに、ここにこんなに人がいたとは。
 ここを右に折れて坂道を上ると、さっきの分かれ道のところに出ます。また、ゆっくりと歩いてオリエンテーションハウスに向かいましょう。
 
 穏やかな冬晴れの一日。今日は本当にのんびりと野山歩きができました。あちこちで子供の頃に見た風景に出会ったような気がします。
 今年も残すところあとわずか。こんなふうに穏やかな気持ちで過ごしたいと思います。