阿武山 〜自然について考えてみる?〜


 

【広島市安佐南区 平成16年2月15日(日)】
 
 前日、広島に2年ぶりに「春一番」が吹き荒れました。
 今日は2月の定例観察会です。場所は阿武山。yamanekoの職場の窓から正面に見える山です。

 七軒茶屋駅

 午前9時、集合場所のJR七軒茶屋駅に集まったのは58人。受付をするのは事務局長の六重部さん(※)(以下、※印は事務局員)。観察会の前に受付を済ませて名前を登録しておくと万一のときに傷害保険がきくのです。
 スタートは加藤代表(※)からの「へぇ〜」な話。毎回この話を楽しみに参加している人も多いと思います。今回は「春一番」に関する話です。
 冬場は低気圧が日本列島の南を移動するため北から冷たい風が吹き込むのですが、季節が入れ替わると低気圧が北に上がり南に高気圧が発生します。この高気圧から吹き込む南風が春一番なのだそうです。
 昨日の風もかなり強烈でした。春一番は語感こそよいもののれっきとした嵐なのです。
 春一番のことを「衣更着(きさらぎ)の風」ともいうそうですが、これは低気圧が東に移動し一時的に冬型の気圧配置になり冷たい風を連れてくるので、いったん脱いだ服をあらためて着るようになるからだそうです。春一番が吹く日の平均は2月22日。旧暦では如月にあたります。なるほど。
 ちなみに、春二番も春三番もあるそうで、三番は桜が散るころに吹く風だそうです。
 
 今日のリーダーは小方さん(※)。この日のためにかなり以前からこつこつと準備されていたことを知るのはyamanekoだけではありません。用意された資料からもそれがうかがえます。
 その小方さんから、今日一日のスケジュールと今回の観察会のテーマ「自然って何だろう?」について説明がありました。開発と自然の折り合いとは、といったものです。
 次は丸平さん(※)の先導で全員でストレッチ。少し体がほぐれたところで、阿武山に向けて出発です。

 住宅地をぬけて

 観察会はただ気の向くままに花や景色を観て歩くものではなく、一定のテーマのもと、きちんとスケジュール管理されたプログラムです。参加者の利便を考慮した集合時刻と解散時刻、観察ポイント、各所の通過時刻、行程内の危険箇所の有無、トイレの場所等々。観察会本番の一週間前、事務局を中心とした指導員で行う下見は、参加者が安心して自然観察をするために欠かせないものです。
 でも、本番でスケジュールどおりに運営するのはなかなか難しいものです。
 今日のリーダーの小方さんが先頭になって観察ポイントでの解説を担当しているので、小方夫人(※)と舛田さん(※)が先頭に付いて全体を引っ張る役目を負っています。一方、遅れがちになる後方集団を押し上げる役割を負っているのは、高光さん(※)とyamanekoです。
 
 登山口までは住宅街を1.5kmほど歩きます。この辺りは、もともと畑が広がっていたところに住宅が建ち並んでいったところです。その昔に開削された「八木用水」が今も流れており、当時の暮らしぶりについての解説もありました。澄んだ水が滔々と流れているのを見て驚く参加者に、すかさず吉岡さん(※)が下水道整備で生活排水の流入が止まったことによるものであることを補足していました。自然と人間の営みとのせめぎ合いといった現実的な問題から目を逸らさない解説をするのが彼の役割となっています。

 稜線を目指す

 住宅街のどん詰まりが登山口。もう早春といってもいいような陽射しを浴びながら一歩一歩登っていきます。
 
 今回、この阿武山を観察会のステージに選んだのには理由があります。
 2年前のちょうど今ごろ、阿武山を眺めると山肌にジグザグの傷跡が現れ、これが山頂に向かい日に日に延びていきました。広島県が実施した治山事業です。たまたまyamanekoもそのころ阿武山に登って偶然この事業の現場に遭遇したのですが、既存の登山道を拡幅し、また、新たに山肌を削って歩道を造り、これを山頂まで延ばしていました。ブルドーザは呻りをあげ、チェーンソーは道の両側の樹木を道幅と同じくらいの幅で伐採していました。
 理由があっての事業なんでしょうが、こりゃいくらなんでも「やりすぎ」だろ、と感じたことを覚えています。
 小方さんもこの頃を含め何度もこの山に足を運ぶうちに、観察会でこの山を歩いてもらうことで「自然って何」と考えるきっかけを作ろうとしたのだと思います。小方さんを含め事務局員からは今回の観察会中、この事業の非を唱えることはありませんでした。あくまでも参加者の皆さんにこの現場を見て何を感じるか、考えてもらいたいという気持ちからです。

 ヒメウズ

 足元の岩に寄り添うようにヒメウズが咲いていました。もう春がそこまで来ている感じです。
 
 10時55分、稜線に出ました。ここは鳥越峠といって、阿武山とそれに連なる権現山との鞍部にあたる場所です。
 この稜線上を治山事業による「散策道」が延びているのです。

 散策道

 チップ舗装

 散策道は本来のアップダウンを無視して作られていることから、あちこちで山肌を削り取っています。さらにその外側の樹木が大幅に伐採され、なぜかあらためてツツジなどが植樹されています。複層林化が目的とのことですが道ばただけ施してみたところでほとんど無意味のようにも感じます。
 歩きやすいようにとの配慮か、足元はチップ舗装されています。チップは間伐材などから作られいかにも自然にふさわしいようにも見えますが、このチップを固めて定着させるために大量の、おそらく何トンという量の樹脂が流し込まれているのです。20年後、30年後にこの樹脂はどうなっているのでしょうか。

 阿武山

 遠くに阿武山の山頂が見えます。あのてっぺんまでこんな道路が続いているのです。すごくないですか。猛進していくブルドーザーが目に浮かぶようです。

 看板が空しい

 「緑を大切に! 広島市」 この看板は治山事業が行われる前から掲げられていたもので、以前からの登山道を行く人々に対して語りかけていたのですが、その足元の山肌を大幅に削り取って散策道が作られていました。この治山事業の依頼元は広島市なのです。

 山頂

 11時40分、山頂に到着しました。最後尾もほぼ予定どおりに到着です。
 標高586m。眼下には先月の観察会のステージになった高瀬堰が見えます。すばらしい天気とこの眺め、登ってきた甲斐があるというものです。息が落ち着いてきたところで昼食としました。

 チップ舗装の樹脂

 事務局の一人が途中道ばたに転がっていた樹脂を拾ってきました。20cmくらいの大きさで、きっと舗装時に余分に絞り出されたものでしょう。こんなものを大量に自然の中に流し込んでおいて「さあ、自然と親しみましょう」って言われても。

 今日のリーダー

 昼食後、今日のリーダーの小方さんから、阿武山にまつわる歴史や言い伝えについて説明がありました。いつものとおりの軽妙な話しぶりで、楽しいひとときを過ごすことができました。
 一方、山頂から反対側(西側)を見ると、木立の先の谷間に広島市の燃やせないゴミの最終処分場が広がっていました。

 玖谷埋立地

 吉岡さんの説明によると、広島市に住む全ての人が出した燃やせないゴミはここに運ばれ、土と交互にサンドイッチ状にしてどんどん積み重ねられていくのだそうです。この春、広島市ではリサイクル推進のためゴミの分別がより細かくなります。家庭から出すゴミを減らすことも小さな、いやみんなでやれば大きな自然保護です。

 ヘクソカズラ

 下山は、阿武山から連なる権現山の山肌を下りることになっています。
 ここには以前造成されその後放置されて朽ちた公園があります。そこまでの道も荒れ果て、訪れる人もなくひっそりとしています。
 治山事業により公園化した自然と、荒廃のため自然化した公園。この二つを並べると、作ることが目的化しているように思え、いずれ阿武山の散策路もこのような状況に至るのではないかとも考えてしまいます。

 リンボク

 ここからの下山路はかなり急で滑りやすく、ヤブこぎに近い箇所もあります。特に急なところにはトラロープが渡してありますが、たるんでいて複数でつかまると大きく振られてしまい危険です。そこで丸平さんとyamanekoとで先行して、ロープを短いスパンで張り直し、安全性を高めてから一行を待つことにしました。
 幸い怪我をする人もなく、事務局としても一安心といったところです。(唯一滑ったのは吉岡さんのみ)

 タマミズキ

 下山したところは「広島県で一番立派な境内を持つ」(?)とわれる宇那木神社のその境内でした。
 今日の観察会はここで解散です。時計を見ると3時半を回っています。
 小方さんからまとめの話がありましたが、今日の観察会の意図をくみ取ってもらえたかどうか、若干不安そうでもありました。

 宇那木神社

 このように、その回のリーダーを中心として毎回多くのスタッフによって観察会は運営されています。まったくのボランティアですが、みんなただ自分の好きなことをやっているだけ。
 
 自然観察会には様々な人が参加します。中には花の名前、木の名前を教えてもらいたくて参加している人も多いと思いますし、もっぱらそのオーダーに応える観察会もありました。
 今回の観察会はそういった意味では不満を感じた参加者もいたかもしれません。観察会に同行する指導員は、もちろん参加者からの質問には答えますし、それに関する解説もしますが、こちらから一方的にレクチャーするようなことはあまりしません。何で、どうして、を自分で見つけ、感動し納得することが、自然への興味や愛しみにつながるのだと思います。指導員はその手助けをする役目ですね。
 
 でも、たまになら「花見」の観察会もいいかもしれませんね。